colortail さんの「よかった探し。」より、「超能力の話。」を元ネタに解決編を作ってみる。
信じている人達に悪いので、こっそりリンク。
「なんだよ、その情けなさそうな顔は?」
一通り話し終えた後、私は炎良に言った。
「情けなさそうな顔なんじゃ無い。情けないと思ってる顔だよ、これは。」
怒ったように言う。
まあいつもの事だ。この男はどうにも付き合いにくい。
「まあ、君は超能力なんて信じないタチだったからな。」
「"超能力なんて信じない"んじゃないさ。"信じるに足る超能力"って奴が無いだけさ。」
...と、言われても私にはどう違うのかいまいちよく解らない。
しかしそれを告げる前に炎良はたたみかけてきた。
「例えばESPカードって物があるのを知っているか?」
馬鹿にしちゃいけない。それぐらい聞いた事はある。
「あの、神経衰弱みたいなことをする奴だろう?」
「そうだ。あのカードの模様がどんな模様か、知ってるか?」
「確か、マルとか三角とか...」
「イメージとしては大体あってるが、三角は無い。マル、十字、三本の波線、四角、五角の星型だ。」
「だから何だよ?」
「ESPカードはデューク大学のライン博士が超能力の検証のために考案したとされているが...」
「されているが?」
「その模様が変だと思わないか?」
「???」
「マル、十字、三本の波線...」
「あ、全て画数が違う...」
「"そういったイメージ的なものを見るのが透視だ"と言えば聞こえは良いが、自称超能力者に協力者がいれば、ずぶの素人にでも簡単にサインを出せるな。」
超能力、特に透視能力で言えば、炎良の言うとおりサクラの存在というのはいつの時代も囁かれる疑惑だ。
そして確かに「1」、「2」、「3」といった符丁なら、「象」、「蜂」、「栗」などといった具体的な事を伝えるよりも遙かに簡単にサクラは演者に答えを伝えることが出来る。
極端な話、単に顔を掻く指の本数を変えるだけでも良いのだ。
「...いやちょっと待てよ。今はESPカードの事は関係ないじゃないか。」
炎良は"困った奴だ"と言わんばかりに頭を大きく横に振った。
「超能力研究って奴の根本的なトコロをまず説明したんだ。アンタの言った、"触れたコースターを当てる"というのもこれに似ている。」
「似ている?」
「つまり、『ある事を知っていれば、単純なタネの手品でも同じ事が出来る。』」
「ある事?」
「...本当の答えはその話からじゃ解らない。与えられた情報が少なすぎるからな。」
「何だ。偉そうなこと言って、実は"タネは解らないけど、何か仕掛けがあるはずだ"と言ってるだけじゃないか。」
炎良は一瞬恐ろしい目をした。
「ああ、その通りだ。だが、それは証拠がないってだけの話だ。いくつかの仮説なら簡単に立てる事が出来る。」
「どういう仮説だ?」
「仮説その1。その"超能力者"はバーの店内装飾についてよく知っていた。」
「はあ?」
「気の抜けた声を出すな。」
「だって...店内装飾と、触れたコースターを当てるのと、どういう関係があるんだよ。」
「単純な、小学生でも思いつくトリックを使ったのさ。」
「マスターがサインを出すとか?」
「その可能性は否定されてるだろう?もっと単純だ。鏡を使って覗いたのさ。」
「馬鹿な!そんな事をすればバレバレじゃないか。」
「コンパクトミラーなんかを使ったんじゃない。だから店内装飾と言ったろ。」
「店に鏡があれば、さすがに気付くんじゃないか?」
「本当の鏡ならな。」
「ニセモノの鏡なんてのがあるのか?」
「場所はバーだぜ。バーに出かけるのはいつだ?夜だろ。外は暗く、店内は明るい。」
「外は暗く、店内は明るい?...!!!」
「そう。窓は自然と鏡のように映りやすくなる。それ以外にも洒落たバーなら天井や柱なんかに鏡面のようになった装飾がキラキラと輝いていても何の不思議もない。」
「しかも、それらは鏡になってはいるけど、本当の鏡ではないから...」
「超能力マジックにかかっている人間はそのタネに気付きにくい。」
「そうか、店内装飾についてよく知っているというのは、つまり相手に気付かれずに"仮の鏡"を覗き込む事が出来るポイントを知っていたという事か。」
「これで満足かな?」
「いや、...それはでもリスクが高すぎるんじゃないか?」
「マジックってのはそのリスクを平然と隠す度量でもあるんだけれどもな。じゃあ仮説その2。」
「今度は何だ。」
「その"超能力者"はバーの小物についてよく知っていた。」
「装飾の次は小物かよ。」
「そう、小物だ。そのバーで使用しているコースターの特徴をよく知っていたという仮定だ。」
「コースターって...コースターだろ?」
「出来れば漆塗りなんてのが一番だが、陶製やプラスチックでも良い。最悪紙でも表面がツルツルならば良いかな。」
「何を言ってるんだ?」
「色は出来れば黒。あるいはそれに近い暗い色。白なんかだと辛いか。」
「だから何を言ってるんだ?」
「その超能力者は"触れた"コースターが解るんだろ?つまり触れた痕跡を見たんだよ。単純に。」
「触れた痕跡?コースターに残された体温とか?」
「そんな器用なモノを見れるもんか。もっと解りやすいものさ。」
「解りやすいもの、解りやすいもの...」
「科学捜査の基本、指紋だよ。特にバーではつまみに軽いモノを食べて手に油が付きやすい。」
「あ、指紋...」
「コースターってのは平たい表面をあまり持たないもんでね。大体はCDを持つ時みたいに縁を持つ。一方、その超能力者はコースターを並べて"触れ"という。そう言われれば、自然とコースターの平面部の真ん中を触るもんだよな。」
「そうか。指紋がついたコースターを探せばいいんだ。」
「どのコースターに指紋が付いていたか覚えていれば、何回かくり返しても大丈夫だ。ついた指紋の個数が増えたコースターを探せばいい。どのコースターにも指紋が増えなければ、その時はどれにも触っていないと考えられる。」
「そうか、だから表面がツルツルの、暗い色のコースターがその手品に向いてるのか。」
「まあ、仮説・推測に過ぎないけどな。」
「...何だか超能力じゃない気がしてきたな。」
「だからあんたは単純なんだ。手品でも同じ事が出来るのと、超能力ではない事は、同義じゃないさ。」
「でも炎良、君は超能力じゃ無いと思ってるんだろう?」
「さあな。黒に近いグレーといった所か。証拠が無い以上、真実は霧の中、さ。」
そういうと炎良は立ち上がり朝霧の中を歩き出した。
慌てて私は後を追いかけたが、どうしたものか彼の姿は霧の向こうに消えたまま見つかる事は無かった。
信じている人達に悪いので、こっそりリンク。
超能力の話。 (炎良編)
「なんだよ、その情けなさそうな顔は?」
一通り話し終えた後、私は炎良に言った。
「情けなさそうな顔なんじゃ無い。情けないと思ってる顔だよ、これは。」
怒ったように言う。
まあいつもの事だ。この男はどうにも付き合いにくい。
「まあ、君は超能力なんて信じないタチだったからな。」
「"超能力なんて信じない"んじゃないさ。"信じるに足る超能力"って奴が無いだけさ。」
...と、言われても私にはどう違うのかいまいちよく解らない。
しかしそれを告げる前に炎良はたたみかけてきた。
「例えばESPカードって物があるのを知っているか?」
馬鹿にしちゃいけない。それぐらい聞いた事はある。
「あの、神経衰弱みたいなことをする奴だろう?」
「そうだ。あのカードの模様がどんな模様か、知ってるか?」
「確か、マルとか三角とか...」
「イメージとしては大体あってるが、三角は無い。マル、十字、三本の波線、四角、五角の星型だ。」
「だから何だよ?」
「ESPカードはデューク大学のライン博士が超能力の検証のために考案したとされているが...」
「されているが?」
「その模様が変だと思わないか?」
「???」
「マル、十字、三本の波線...」
「あ、全て画数が違う...」
「"そういったイメージ的なものを見るのが透視だ"と言えば聞こえは良いが、自称超能力者に協力者がいれば、ずぶの素人にでも簡単にサインを出せるな。」
超能力、特に透視能力で言えば、炎良の言うとおりサクラの存在というのはいつの時代も囁かれる疑惑だ。
そして確かに「1」、「2」、「3」といった符丁なら、「象」、「蜂」、「栗」などといった具体的な事を伝えるよりも遙かに簡単にサクラは演者に答えを伝えることが出来る。
極端な話、単に顔を掻く指の本数を変えるだけでも良いのだ。
「...いやちょっと待てよ。今はESPカードの事は関係ないじゃないか。」
炎良は"困った奴だ"と言わんばかりに頭を大きく横に振った。
「超能力研究って奴の根本的なトコロをまず説明したんだ。アンタの言った、"触れたコースターを当てる"というのもこれに似ている。」
「似ている?」
「つまり、『ある事を知っていれば、単純なタネの手品でも同じ事が出来る。』」
「ある事?」
「...本当の答えはその話からじゃ解らない。与えられた情報が少なすぎるからな。」
「何だ。偉そうなこと言って、実は"タネは解らないけど、何か仕掛けがあるはずだ"と言ってるだけじゃないか。」
炎良は一瞬恐ろしい目をした。
「ああ、その通りだ。だが、それは証拠がないってだけの話だ。いくつかの仮説なら簡単に立てる事が出来る。」
「どういう仮説だ?」
「仮説その1。その"超能力者"はバーの店内装飾についてよく知っていた。」
「はあ?」
「気の抜けた声を出すな。」
「だって...店内装飾と、触れたコースターを当てるのと、どういう関係があるんだよ。」
「単純な、小学生でも思いつくトリックを使ったのさ。」
「マスターがサインを出すとか?」
「その可能性は否定されてるだろう?もっと単純だ。鏡を使って覗いたのさ。」
「馬鹿な!そんな事をすればバレバレじゃないか。」
「コンパクトミラーなんかを使ったんじゃない。だから店内装飾と言ったろ。」
「店に鏡があれば、さすがに気付くんじゃないか?」
「本当の鏡ならな。」
「ニセモノの鏡なんてのがあるのか?」
「場所はバーだぜ。バーに出かけるのはいつだ?夜だろ。外は暗く、店内は明るい。」
「外は暗く、店内は明るい?...!!!」
「そう。窓は自然と鏡のように映りやすくなる。それ以外にも洒落たバーなら天井や柱なんかに鏡面のようになった装飾がキラキラと輝いていても何の不思議もない。」
「しかも、それらは鏡になってはいるけど、本当の鏡ではないから...」
「超能力マジックにかかっている人間はそのタネに気付きにくい。」
「そうか、店内装飾についてよく知っているというのは、つまり相手に気付かれずに"仮の鏡"を覗き込む事が出来るポイントを知っていたという事か。」
「これで満足かな?」
「いや、...それはでもリスクが高すぎるんじゃないか?」
「マジックってのはそのリスクを平然と隠す度量でもあるんだけれどもな。じゃあ仮説その2。」
「今度は何だ。」
「その"超能力者"はバーの小物についてよく知っていた。」
「装飾の次は小物かよ。」
「そう、小物だ。そのバーで使用しているコースターの特徴をよく知っていたという仮定だ。」
「コースターって...コースターだろ?」
「出来れば漆塗りなんてのが一番だが、陶製やプラスチックでも良い。最悪紙でも表面がツルツルならば良いかな。」
「何を言ってるんだ?」
「色は出来れば黒。あるいはそれに近い暗い色。白なんかだと辛いか。」
「だから何を言ってるんだ?」
「その超能力者は"触れた"コースターが解るんだろ?つまり触れた痕跡を見たんだよ。単純に。」
「触れた痕跡?コースターに残された体温とか?」
「そんな器用なモノを見れるもんか。もっと解りやすいものさ。」
「解りやすいもの、解りやすいもの...」
「科学捜査の基本、指紋だよ。特にバーではつまみに軽いモノを食べて手に油が付きやすい。」
「あ、指紋...」
「コースターってのは平たい表面をあまり持たないもんでね。大体はCDを持つ時みたいに縁を持つ。一方、その超能力者はコースターを並べて"触れ"という。そう言われれば、自然とコースターの平面部の真ん中を触るもんだよな。」
「そうか。指紋がついたコースターを探せばいいんだ。」
「どのコースターに指紋が付いていたか覚えていれば、何回かくり返しても大丈夫だ。ついた指紋の個数が増えたコースターを探せばいい。どのコースターにも指紋が増えなければ、その時はどれにも触っていないと考えられる。」
「そうか、だから表面がツルツルの、暗い色のコースターがその手品に向いてるのか。」
「まあ、仮説・推測に過ぎないけどな。」
「...何だか超能力じゃない気がしてきたな。」
「だからあんたは単純なんだ。手品でも同じ事が出来るのと、超能力ではない事は、同義じゃないさ。」
「でも炎良、君は超能力じゃ無いと思ってるんだろう?」
「さあな。黒に近いグレーといった所か。証拠が無い以上、真実は霧の中、さ。」
そういうと炎良は立ち上がり朝霧の中を歩き出した。
慌てて私は後を追いかけたが、どうしたものか彼の姿は霧の向こうに消えたまま見つかる事は無かった。
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by ironfox
| 2006-02-28 01:20
| Short Story
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