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鉄狐の宴

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踊らぬ人形 (3)


踊らぬ人形 (2)




「待てよ」

炎良が初めて口を挟んだ。

「そんな話なら、和歌って娘は"人形に憑かれて"死んだんじゃなくて...」
「"心を病んで"命を断ったと?」
「君だってそれを意識して話をしてたハズだ。」

私はかむりを振った。

「一般的に見ればそう見える、という事さ。」
「一般的に。君は違うという事だな。彼女が心の病を持っていなかったという証拠でも...」
「持っている。」

私は一枚の紙切れを彼に手渡した。
そこには、まだ幼さが見られるものの、わかりやすく、丁寧に書いた文字が並んでいた。


いつも、父のお仕事に協力していただきありがとうございます。
声をかけてあいさつすることができなくてごめんなさい。
でも、心から感謝しています。
わがままな父ですが、これからもよろしくお願いします。



「紙飛行機?」

炎良は文章に対する感想ではなく、紙の折り目を見てそう言った。

「4日前に私が大石の家に原稿を取りに行った時に、二階の窓から投げられたものだ。」
「手紙の主はその少女か。」
「あの家には大石と和歌さんしか住んでいなかった。」
「で?」

紙飛行機は門を出ようとする私の後頭部に当たって落ちた。
最初は何が起こったのか判らなかったが、紙飛行機に気づいて周囲を見渡しすと大石邸の2回の窓から一人の少女の影が見え、そしてさっと消えた。
大石の担当編集になって3年にもなるが、その間で私が大石の娘を目にしてたのはそれが初めてだった。
...そして、最後でもあった。

「見ての通り文字はそこら辺の女子高生と比べても丁寧だし、文章の内容も父親を想う心情を素直に表現した素直なものだ。2日後に自殺するくらい、心を病んでいたとは到底...」
「思えない?君は勘違いしてるな。」
「勘違い?」
「心の病気ってのは肉体の病気と同じで症状は様々だ。慢性的に鬱になる症状もあれば、発作的に何かの衝動に駆られるってタイプだってある。」
「そうかも知れない。だが、その"突発的な衝動"って奴こそ」
「"憑き物"が原因だって?」

炎良は冷たい視線を向けた。
その時点では言葉こそ発していなかったが、明らかにそれは否定の態度だった。
にも係わらず、炎良はこんな言葉を次に発した。

「いいだろう。君の質問は、『憑依』ってものを信じるか?だったな。
答えてやろう。
いいか?少なくとも、『憑依現象』という現象は確実に、現実に存在する。」


踊らぬ人形 (4)


by ironfox | 2005-05-17 22:25 | 踊らぬ人形 | Comments(0)

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