踊らぬ人形 (2)
→ 踊らぬ人形 (1)
大石 信也。42歳。
私が編集者を勤める「月刊 アーバン・サイツ」に長期に渡って連載を維持してきたエッセイストである。
年齢のわりに時代遅れの真面目一辺倒のエッセイではあるが、「大人のメルヘン」を感じさせる美しい文体は女性読者から強い支持を受けている。
大石の妻が交通事故によりこの世を去ったのはもう5年前の事になる。
大石カレン。享年32。
制限速度20Kmオーバーで運転していた大学生の車が過重積載のダンプのこぼした砂によりスリップし、運悪く通りかかったカレンを直撃した。
創作人形界で人気が急上昇し、いよいよ世界に名を上げようという時の事だった。
大石の落胆はすさまじく、当時彼の周囲にいた者たちは彼が自殺でもしないかと真剣に心配したらしい。
しかし、その彼の命を救ったのは幸運ではなかった。
大石信也とカレンの一人娘、和歌が「ひきこもり」になってしまったのだ。
自分と同じく精神を病んだ、当時中学1年生の娘を一人にする事はできなかったのだろう。
愛する娘を立ち直らせなければとの父親としての本能が目覚めたのかもしれない。
結局、娘 和歌はその後学校に登校するどころか家を一歩も出ないないようになってしまったが、そんな娘を支える父親の姿は、我々業界人の間で感動的な話題として知れ渡る事になった。
しかし、和歌の病状は一向に改善しなかった。
どうやら、娘の病んだ姿を他人に見せたくないという大石の頑なさが度を過ぎた事もそれには原因があると思われる。
大石自身は精神科医にアドバイスを受けることはしたが、結局、和歌が医師と会うことは一度もなかったらしい。
ゆえに。
今回の事は大石が自ら招いた不幸であったと見ることもできるだろう。
そう、大石の一人娘 和歌 は、
彼らの別荘で、
母、カレンが最期に残した人形を胸に抱きながら、
自らの命を断った。
枕元には大石への最期のメッセージが残されていた。
「ワタシハ オニンギョウサンニ ナルノ」
→ 踊らぬ人形 (3)
by ironfox
| 2005-05-17 22:26
| 踊らぬ人形
|
Comments(8)
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at 2005-02-24 21:46
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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ironfox at 2005-02-25 01:05
そちらにてお返事記入させていただきました。
0
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at 2005-02-25 13:28
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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ironfox at 2005-02-25 20:17
多謝です。頑張らせて頂きます。
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at 2005-02-25 23:19
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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ironfox at 2005-02-27 14:17
こちら側でのレスが抜けていました。
鍵さま、そちらにてコメントさせて頂いております。
鍵さま、そちらにてコメントさせて頂いております。
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kanbe48 at 2005-10-11 20:32
もしかすると知っているかも知れませんね、中島みきこさんのこと。
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ironfox at 2005-10-14 00:25
あー、ごめんなさい。
ここの登場人物は完全に私の創作で、特にモデルとした人物はいないんですよ。
(一応推理小説風を装ってますので、誰かをモデルにすると失礼になっちゃいますから...)
「中島みきこの創作人形」立ち寄らせていただきました。
人形作家の方と言えば辻村ジュサブローさんと川本喜八郎さんぐらいしか存じ上げなかったんですが、うわぁ...こちらも凄いですねぇ。
どうしてこんなに生き生きとなるのか、ホント魔術のようです。
ここの登場人物は完全に私の創作で、特にモデルとした人物はいないんですよ。
(一応推理小説風を装ってますので、誰かをモデルにすると失礼になっちゃいますから...)
「中島みきこの創作人形」立ち寄らせていただきました。
人形作家の方と言えば辻村ジュサブローさんと川本喜八郎さんぐらいしか存じ上げなかったんですが、うわぁ...こちらも凄いですねぇ。
どうしてこんなに生き生きとなるのか、ホント魔術のようです。