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鉄狐の宴

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筺 (2)


筺 (1)



頂上にはまな板のような黒い石が鎮座していた。
石の四方には榊が植えられており、少し古びてはいるが締縄が張られている。
それは、その石が神聖なものである事を示しているに他ならない。
だというのに石の上には...一人の小柄な男が寝転がっていた。

「何と...。」

付き人は驚きを思わず声に漏らした。その声に気づいたのか、石の上の小男はおもむろに頭を持ち上げて白衣の男と付き人を交互に見た。

「おう、あんたか。」

小男は白衣の男に向かって旧知の間柄であるかのように声をかけた。
白衣の男は答えた。

「炎良。久しぶりだ。前に遭ってから随分経つというのに、君は全く変わっておらんな。」

「あんたは随分変わった。前に遭った時は加茂の親父の使いっ走りだったというのに、今や押しも押されぬ...」

「おい、炎良とかいう奴!態度が大きいぞ!この方をどなたと心得ておる!」

付き人が割り込んだ。
なるほど確かに傍目から見れば炎良という男の態度は目に余るものがあるだろう。どこからどう見ても「貴人」である白衣の男に対して、炎良はせいぜい下級武士のような風体しかしていない。それが「あんた」呼ばわりなのだ。

「小僧っこは黙ってろ!俺を怒らせると...貴様を取って食うぞ!」

炎良はいきなり飛び起きると、弓から放たれた矢のように付き人の方に跳びかかった。
しかし、正に炎良の手が付き人の喉元にかかろうとした瞬間、炎良は動きをぴたりと止めた。
付き人はそのまま地面にぺたりと腰を落とした。いや、野生の獣にいきなり襲いかかられたような錯覚に陥り、腰を抜かしたのだ。

「何だ何だ、その程度の度胸で、よくこの男の付き人がしていられるな。」

炎良は呆れた顔で付き人に言い放った。

「炎良、君は利道が...ああ、利道というのはその付き人の名前だが...利道がそうなるのを見越していたんだろう?その男はそれなりに優秀な男だ。からかわないでやってくれ。」

「ふん。この世で最も恐ろしい魔物と対峙せにゃならん役職につこうという男からしてこれだ。あんた達の先行きも暗いな。」

「最も恐ろしい魔物?」

「人の欲、さ。」

「おう、その"人の欲"退治に君の力を借りたくて今日はここまで来たんだが。」

炎良の語尾をすかさず捉え、白衣の男はすがすがしく切り出した。
炎良は片眉をぴんと吊り上げて何とも言えない表情を作った。

「...あんたのそういう所、何とかならないか?」

「ならないな。」

「さすがは陰陽寮の長官ともなろうとも言う男、人使いが上手いな。」

「手伝ってくれるか?」

「話を聞いてからだ。清明。」

白い狩衣の男、安部清明は炎良の答えを聞いて、またにっこりと笑った。



筺 (3)


by ironfox | 2005-05-19 22:55 | | Comments(2)
Commented by poorpinkperson at 2005-05-25 03:40
うお!清明ですか!!!私、清明大好きなんですよね~。陰陽師に、昔はまってから。夢枕獏氏の本も良く、読んでおりましたから!展開、気になりますわ!(誰)
Commented by ironfox at 2005-05-26 00:12
あ、こっそり更新続けてたのに見つかってしまった!
えーと、清明です。
でもこのBlogでは主役が別にいるので、かなり「生(なま)の人」の感じになっちゃいます。
イメージ崩してしまったらごめんなさいです~。

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